なぜAIは推論ができるのか?
なぜAIは推論ができるのか?――「次の単語予測」から広がる知能の世界
予測モデルの驚きの力
生成AIの基本はとてもシンプルです。
大量の文章を学習し、「次に来る単語」を予測する。
例えば、日本語の文章を読み込ませ、その先に対応する英単語を出すように学習すれば翻訳システムができます。
この「次の単語を当てる」という仕組みは一見単純ですが、なぜか要約や推論、文章構築にまで広がっている。
研究者たちが驚いたのは、ただの確率的予測が「論理的に考えているように見える」結果を出す点でした 。
Transformerの登場と推論の広がり
この仕組みを飛躍的に高めたのが2017年に登場したTransformerです。
それまでのAIは、文章を一語ずつ順番に処理する「リレー方式」でした。
しかしTransformerは**文章全体を同時に眺めて関連性を捉える(Self-Attention)**仕組みを持ち、文脈理解や推論能力が飛躍的に強化されました 。
ChatGPTなどの大規模言語モデルは、このTransformerを基盤にして「次単語予測」を繰り返すことで、あたかも人間のように考えているように振る舞います。
人間の脳も「予測」で動いている?
面白いことに、この仕組みは人間の脳の働きとも似ています。
脳科学の研究では、私たちが会話や文章を理解するときも「次に来る言葉や展開を予測」しながら処理していることがわかっています 。
例えば、
- 会話中に相手の次の言葉を自然に想像する
- 文章を読んでいるときに「この後こうなるだろう」と無意識に期待する
こうした予測的処理は「予測的符号化(Predictive Coding)」と呼ばれ、脳の基本的な仕組みと考えられています 。
脳とAIの類似点
最近の研究では、人間の脳が文脈を処理する様子と、AIがテキストを処理する仕組みに驚くほどの類似性があることも指摘されています。
特に「前後の文脈から意味を補う」点や「確率的に次を予測する」点は共通しているという報告があります 。
つまり、人間の脳も生成AIも、基本は**「予測」**に基づいて言語処理を行っているのかもしれません。
基本は案外シンプルだった?
生成AIの「推論能力」は、実は単純な仕組みの積み重ねによって生まれています。
人間の脳の知能も、その根本には同じようなシンプルな予測メカニズムがあるのかもしれません。
「知能は複雑に見えて、その土台は驚くほどシンプル」――。
AIと脳の研究は、このパラドックスを解き明かす鍵になりつつあります。
参考URL
- 自然言語処理モデルはどう動くのか(skygroup解説)
- Transformer入門(キカガク)
- 言語獲得と理解の脳内メカニズム(J-STAGE論文)
- 人間の脳と人工知能の言語処理メカニズムの類似性(LinguaPorta研究記事)
- 聞くことと読むことの脳科学 ― 予測的符号化の観点から
Author: Tuta | Published on: 2025年09月24日